【ブックレビュー 1】正田彬著『消費者の権利 新版』の紹介
こんにちは。消費者安全問題研究会の事務局です。
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2010年2月に刊行された、消費者法に関する新書の紹介をさせていただきます。
著者は、経済法・消費者法を中心に、長年研究された方です。
刊行前年の2009年6月に逝去されたため、舟田正之立教大学教授と岩本諭佐賀大学教授が、同年9月に消費者庁・消費者委員会が発足したことなどの変化を入れ込むことを中心に、改訂作業をされたとのことです。
1972年の旧版から40年近く経ち、全面的に改訂された新版です。
(事務局は、不勉強ながら旧版を読んでいませんが、「序」によれば、旧版から、「消費者の権利」に対する考え方の本質はいまなお変わっていない、とのことです)
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印象的な個所を、いくつか引用させていただきます。
まず、「消費者の権利」という考え方の出発点を、説き起こす部分です。
「人間の権利の尊重は、現代社会の基本原則である。したがって、事業者による事業活動は人間の権利の尊重を前提として成り立つものでなければならない。けっして、人間の権利と事業者の権利をどう調整するか、どう折り合いをつけるか、という発想であってはならない」
「事業者も、一般の市民と同様に、他人の権利を尊重するということが、経済活動についての基本原則なのである。こうした基本原則を具体化したものが『消費者の権利』であるという意識が必要である」
「消費者の権利」という考え方の出発点は、「消費者の生命・健康・生活の自由」と関わる場面で、とくに強調されています。
「近代市民社会におけるルールの第一の原則は、個人の尊重である。何人も他人によって生命・健康・生活の自由を侵されないという原則が、その中心をなすことはいうまでもない。事業者が消費者に対して生命・健康・生活に対する危険を生じさせないためには、消費者の権利と同時に、市民社会における人間としての基本権を消費生活の場において具体化するという意識も必要である。これは、事業活動によって生命・健康・生活環境が侵される公害などの問題と等質のとらえ方である」
消費者の生命・健康の権利を確保するにあたっては、商品やサービスがもつ危険性についての表示が大切であるという考えから、「正しく必要な表示をさせる権利」が重要である、との指摘につながってゆきます。
本書の全体を通じて、著者は、このあたりの叙述を、丁寧に論じているように思われます。
「商品・サービスについて、いかなる危険性があるか、いかに使用すれば安全に使用できるかを消費者に明らかにするための表示(情報提供)が重要である。しかもその表示は、その商品が使われる場合には常にそれに気がつくような形で、つまり容易に目に見える形でなされていることが不可欠である。このような表示が行われて、はじめて消費者の権利を確保した上でのその商品の提供であるということができる」
「商品・サービスの中身を正しく表示させることは、消費者の生命・健康の権利を確保するために不可欠である。消費者の安全を確保するためにどのように表示させるかといった問題は、消費者の商品・サービスを正確に認識する権利の重要な部分を占める」
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本書は、消費者の権利として、これらのほかに、「価格決定に参加する権利」「必要な情報の提供を受ける権利」が重要だとされ、それぞれ一章を割いています。
さらに、消費者行政の新しい動きや今後の課題、消費者が主体となってなにができるか、といったテーマについても幅広くとりあげています。
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本書は、経済社会がグローバル化し、商品やサービスが提供される過程が高度に複雑化した現代の日本社会のなかで、日本の消費者の位置をとらえるユニークな視点をもっています。
ときに率直で厳しい指摘をまじえながら、本書の内容は、製造物責任法をふくめ、消費者安全に関わる法制度の内容や運用、今後の課題などを考えるうえで根本的な示唆をあたえ、参考になるのではないかと思います。